トムラウシ遭難考-ゴアテックスのレインウエア (3)
2009-09-30


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本職は樹脂成形の物理なので、多少、樹脂の知識が有ります。ただし、化学的性質は専門外です。
 そういうわけで、一般の人よりも、樹脂の知識があるので、以下、簡単に、ゴアテックスについて、一般的な説明をします。ただし、樹脂の化学は素人なので、誤りがあるかもしれません。誤りがあるならば、ご指摘願います。

 現在使われているほとんどすべてのゴアテックスレインウエアーは、3層構造になっています。
 このうち、中央の層が防水透湿の性能を持っています。中央の層、ゴアテックスメンブレン(ゴアテックス膜)は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(四フッ化エチレン樹脂)の薄い多孔質フィルムで、孔の大きさは水蒸気分子の700倍、水滴の5000分の1以下であるため、水蒸気を通して、水滴を通さない性質があります。(ゴアテックスメンブレンの孔の大きさを200nm、水蒸気分子の大きさを0.3nm、水滴の大きさを1mmとして計算しました。)
 表面と裏面の層は、通常ナイロン繊維が使われます。この層には防水性は有りません。強度を保つため、着心地を確保するため、着色のため等、衣類としての性能維持のための層です。
 
 PTFEは炭素の直鎖に、炭素1個あたり2個のフッ素が結合した構造になっています。炭素とフッ素の結合エネルギーが高いため、PTFEはもっとも化学的に安定した樹脂で、耐熱性・耐薬品性・耐寒性・対光性等にすぐれています。通常の使用状態では、変質しません。熔融アルカリ金属、放射線曝露等の特殊環境では変質します。
 ゴアテックスメンブレンはPTFEなので、通常の使用状態では、変質しないと思われます。

 表面と裏面に使われているナイロンとは、ポリアミド合成繊維のことで、{CO-(CH2)5-NH}n の構造の6ナイロンと、
{CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH}n の構造の66ナイロンが有ります。どちらも、似たような性質です。
 ナイロンは吸水性が大きい樹脂で、吸水すると、強度が低下しますが、ある一定の低下に止まるようで、このため、ナイロンは漁具をはじめとして、水濡れする場所でも問題なく使われています。ただし、吸水したナイロンを凍結した場合、脆化する可能性があります。
 また、ピュアーなナイロンは紫外線で劣化します。このため、耐紫外線性能を附加するため、紫外線吸収剤を添加することも有ります。

 ナイロン繊維は、日常幅広く使われていますが、PTFEに比べると、劣化しやすい樹脂です。
 10年たっていないのに、ゴアテックスの表面がぼろぼろになることが有ります。これは、表面のナイロン層の劣化です。ナイロン層にはもともと防水効果は無いので、表面がぼろぼろになっても、防水性能が失われるわけではないのですが、防水層のゴアテックスメンブレンは薄いので破れやすく、ナイロンが劣化した場合、使用は避けるべきです。

 ゴアテックスの生地の寿命は、表面・裏面のナイロンの寿命です。実際に何年使えるのか予測することは、使用状態の他に、どのようなナイロンを使って作られているのか、と言うことも関係しているので、難しいところです。
 ゴアテックスのスパッツの表面がボロボロになったことがあります。スパッツは吸水後凍結するし、雪山で強い紫外線を浴びるので、ナイロンにとっては、厳しい使用環境です。
 ゴアテックスのレインウエアは10年くらい使っても平気なような気がしているのですが、いかがでしょう。


ちょっとおまけ。
 ゴアテックスは汗を通して、水を通さないと思っている人もいるようですが、そんなことは有りません。気体の水(水蒸気)を通して、液体の水を通さない性質があります。かいた汗が水になってしまったら通しません。
 このため、速乾性の無い下着を着用したために、汗が垂れるようになってきたら、ゴアテックスはお手上げです。


おまけ、その2。

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