本の紹介ーネット右翼の終わり
2019-09-30


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古谷経衡/著『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』晶文社 (2015/7)

 右翼系ジャーナリストによるネット右翼の解説。
 文章自体が読みにくいわけではないのだけれど、論旨一貫として書くスタイルではないので、社会問題の解説書としては、ちょっと読みにくい。

 著者はネット右翼の始まりを日韓ワールドカップサッカーに設定し、これを「前期ネット右翼」と呼ぶ。サッカーの判定への不満から嫌韓が起こったとのことだ。前期ネット右翼は保守思想を学んだものと、思想を学ぶことなく表面的な言葉のみを取り上げたものとに分け、保守思想を学んだものを「広義のネット右翼」、思想を学ばなかったものを「狭義のネット右翼」と位置付ける。また、「前期ネット右翼」が「狭義のネット右翼」や「広義のネット右翼」に転化するに果たした役割として「チャンネル桜」の影響を指摘している。
 「狭義のネット右翼」は本を読まず、保守思想を理解することなく、ヘイトスピーチに向かった者である。こういう人たちは低学歴かと思いきや、著者によると、大卒や自営業などで高学歴者やある程度の高収入者が多いとのことである。この「狭義のネット右翼」の推定人口を150万人としている。
 さらに、保守勢力の中で、田母神俊雄らを取り上げて、ネット右翼同様にデマを振りまいている事実を指摘し、保守が「狭義のネット右翼」に迎合している状況を指摘する。そういえなくもないが、そもそも田母神俊雄は元自衛隊員であって歴史学者ではないのだから、歴史の話題では無知によるデマを吹聴するしか能がない人なのではないか。まさに、「狭義のネット右翼」そのものではないだろうか。

 著者は「狭義のネット右翼」の無知について、歴史教育の問題点を指摘した後、結局はネット右翼たちの「知的怠惰の姿勢」こそ問題であると、彼らを糾弾している。  歴史教育についてはどうか。明治維新、大正デモクラシー、第二次大戦くらいまではまあ頑張ることもあるが、第二次大戦の具体的な戦史についてミッドウェーもガダルカナルもインパールも教えないし、戦後にあってはせいぜい日本国憲法発布とかGHQの三大改革(農地改革、財閥解体、男女普通選挙)くらいで終わって、後は自習の時間かそのまま卒業と相成る。これらの近現代史の事象は、たとえ勉強しなくとも、大学入試センター試験や個別試験の材料として扱われることはほぼ無い。さらに現代に近い部分、冷戦崩壊後の/990年代以降の記述となると、教科書にはほんの数行しか登場していない。
 ・・・ 実は、「狭義のネット右翼」が依拠している「ネットで知った歴史の真実」「ネットで知った日本社会の真実」というものは、このように公教育の中で、特に政治経済の授業や近現代史のそれの中でなおざりにされてきた、そのニッチな間隙を突いたものがほとんどなのである。
 ・・・ つまりは、「狭義のネット右翼」とは、学校教育で網羅しているのみの、乏しい知識体系の外に、突如として湧いてきた真偽不明な情報を「真実」として鵜呑みにする人々のことであり、そしてその原因は、学校教育の不作為である以上に、「学校以外での知的探求」を怠っていた知的怠惰の姿勢にこそ、求められると言わなければならず、この点は手厳しく糾弾しなければならない。  この記述は事実とは言えない。高校日本史教科書の山川出版・詳説日本史では、戦後史に全体の10%を割いているし、センター試験でも、ほぼ毎回戦後史が出題されているので、著者の言うように学校教育で近現代史が無視されているということはない。ただし、近現代史は、歴史の授業の最後に現れるので、偏差値が低い高校では飛ばされることもあるだろう。高校では勉強せずに漫然と過ごし、推薦で大学に入り、大学ではバイトやサークルに明け暮れ、まともに勉強した経験のない者がネット右翼になり下がったとしても驚くに当たらない。
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