トムラウシ山遭難考(15)―体感温度
2010-07-08


昨年7月16日に、北海道大雪山系トムラウシ山で、中高年ツアー登山パーティーの大量遭難事故があった。夏としては低温で強風という気象条件の中で、低体温症を発症して凍死したものである。トムラウシ山遭難事故調査特別委員会より、今年の3月初めに最終報告書(トムラウシ山遭難事故調査報告書)が作成・公開されている。([URL]

 本遭難の原因が低体温症であることは明らかであるが、低体温症に至った原因について、正確なことは分かっていない。報告書では低体温症に至った最大の要因を「風の強さ」としている
 当時、風速20m気温5℃程度だったようなので、風速1mを1℃に換算する簡易法を使うと、当時の体感温度はマイナス15度で、これでは低体温症になるのも無理はないような誤解をすることもあるだろう。しかし、体感温度を、風速1mを1℃に換算する簡易法は、裸体のときの見積もりであって、着衣がある場合は、それほど体感温度が下がるわけではない。

 以下、着衣の影響を考えた体感温度を求める

物理が苦手な人は飛ばしてください。

人間の体は複雑な形をしているので計算が難しいから、直径30cm高さ150cmの円柱に置き換えて考える。最初に、物理(流体)の問題を解く。ただし、空気は乾いているものとして計算する。


問1:
 直径30p・高さ150p・温度36℃の円柱に、風速20m/sec・温度5℃の強風が吹き付けているとき、円柱側面から奪われる熱量はどれだけか。

問2:
 風速5m/secの風が吹き付けているとき、問1と同じ熱量が奪われるのは、風の温度は何℃のときか。
 また、風速3m/secの風が吹き付けているとき、問1と同じ熱量が奪われるのは、風の温度は何℃のときか。

問3:
 直径30p・高さ150p・温度36℃の円柱に、厚さ5oの発泡ウレタンが巻きつけられている。風速20m/sec・温度5℃の強風が吹き付けているとき、円柱側面から奪われる熱量はどれだけか。

問4:
 風速5m/secの風が吹き付けているとき、問3と同じ熱量が奪われるのは、風の温度は何℃のときか。
 また、風速3m/secの風が吹き付けているとき、問3と同じ熱量が奪われるのは、風の温度は何℃のときか。

問5:
 発泡ウレタンが1cmのとき、問3,4と同様な問題を解け。

問6:
 発泡ウレタンが2cmのとき、問3,4と同様な問題を解け。


問1、問2の解答の準備

最初に、次の記号・値を使用する。

k:空気の熱伝導率でk=0.024 W/m・K
ν:空気の動粘性係数でν=16 μm2/sec
Pr:空気のプラントル数でPr=0.7
α:発泡ウレタンの熱伝導率で、α=0.032 W/m・K
d:円柱直径でd=0.3 m
u:空気の流速
凾s:円柱と空気の温度差
S:円柱側面の表面積でS=1.41m2

空気の強制対流熱伝達に対して次の式が成り立つ。

レイノルズ数Reは次式である。
  Re=u×d/ν
今回の問題では空気の流速は3m/sec以上なので、Re>40000となり乱流域であるので、ヌセルト数Nuに対して次式が成り立つ。
  Nu=0.0266×Re ^0.805×Pr ^0.333  ( ^は累乗を表す)
空気流の熱伝達率をhaとすると次式となる。
  ha=Nu×d/k
円柱側面から奪われる熱量をQと書くと次式となる。
  Q=ha×凾s×S

問1の解答
 凾s=31、u=20を代入して、
  Q= 2540W =52263kcal/日  となる。

問2の解答
 u=3のとき、Q=2540 W となる空気温度を求めると、
空気温度=-106.7℃

 u=5のとき、Q=2540 W となる空気温度を求めると、
空気温度=-58.6℃
 

問3の解答
 発泡ウレタンの熱伝達率をhbと書く。
  hb=α×(断熱材厚さ)
 発泡ウレタンと空気の合計の熱伝達率をhと書くと次式が成り立つ。
  1/h = 1/ha + 1/hb
 (ただし、円柱の曲率の影響は無視した)


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[登山]

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